このところ不思議な天気が続く都内某所の愉しみときては。長期化する巣ごもりの最強営為は読書なわけで、図書館で予約しておいた我が最愛の作家村上春樹氏『一人称単数』が届き早速読了した。齢七十歳を越した超人気作家の長編小説とは異なって一筆書きの短編小説を集めた本作である。表題どおり私小説のようなあんばいで「僕」と私の異音同語が楽しい。翻訳家としても膨大な仕事量を誇る春樹氏ならではの英語とかの薀蓄も楽しめるのかとおもいきやの期待ハズレも楽しかった。謎と空白を巧みに操る作家の技巧はあるとしても。夢と幻の掛け合いも楽しい。
やはり長編小説作家として様々なアジャストメントが時間切れにならないあんばいで行われているようにも思える。テレビ関連の露出がいっさいない作家の今後はやはり興味深い。この時期、『風の歌を聴け』あたりから全部読み返してもいいころあいでもある。長引くコロナ時代の終わりなき旅を内的世界にさすらうのもかなりの興だと思う。