2階のベランダから小学生くらいの子供が水鉄砲によって水を通行人にかけた。
「こらぁ〜」
「こらぁ〜」
雨傘とパン屋と八百屋の買い物で手が塞がれた男が叫んだ。黒い帽子を目深に被ったウインドブレーカーを着ている。散歩のついでに買い出しをしていた風だ。黄砂が舞う薄暗い日である。
その家の表札を見るとSATOとある。佐藤なのか佐東なのか左党なのか。どうやら子供のしつけは失格の残念な家庭のようである。
思い出すのが松本清張「天城越え」だ。少年の殺意だ。恋心すら抱いた女が土工とマグワイ失恋した腹いせに殺した。
清張が嫌った三島由紀夫の「午後の曳航」もそうかも知れない。少年の殺意である。元船乗りの男が母を奪った腹いせであった。
あの時、水鉄砲ではなくスパナを手にしていたら。「獣の戯れ」だな。殺意と凶器。多分男は脳髄を壊され即死していただろう。