来客を待つ座敷。宴の前は予感と緊張そして高まる期待。
三島由紀夫の政治小説『宴のあと』を巡って国内初のプライバシー侵害の裁判があった。
三島は実際の事件や実在人物を題材にすることが多かった。言わずと知れた『金閣寺』や往年のホリエモンとオーバーラップする金融会社社長がモデルの『青の時代』、京大生の殺人事件から『幸福な機械』など。
他にも横溝正史の『八墓村』は津山事件や『悪魔が来りて笛を吹く』は帝銀堂事件もそうだけど。
小説の言説の文学的有効性はリアリティ獲得が至上命題だ。ならば作者の作為を越えた現実に取材するのはなかなかの戦略だと思う。
私小説という作者自らを主人公にした狭隘な日常生活から真のリアリズムを抽出する試みも日本文化の伝統芸の如き様相すら呈す。書き手自らが自己の内面を掘り下げる事実が文面や文体に迫力を増す。
宴は最中こそ楽しさの極み。宴たけなわだからこそ人生は楽しい。